78万HIT記念イラスト
 




「そこで何してるの?」
冷たい空間に声が広がる。
咎めるような言い方だが、声自体は温かかった。
その声にびくりと反応してマレは後ろを振り返る。
そこには赤ボールを持った白いウサギがいた――。
「え……っと、瓦礫、の…………掃除を……」
何も悪いことはしていないはずだ、と思いつつマレは答える。
目の前にいるアプリケットの喋り方はいつも人を責める様なものなのでマレはいつも委縮してしまうのだ。
「……まさかとは思うけど、コロワかルニカの指示?」
マレの返答を聞いて、アプリケットが眉をしかめた。
「いえ……僕が勝手に…………やってる、ことです」
何故そう思うのかと疑問に思いつつ、マレはアプリケットの言うことを否定する。
この瓦礫の片づけは自分でやっていることだと。
マレ達のいるこの研究所は事故があった際の混乱等で崩れている場所がある。
居住区はコロワ達が片づけたらしいが、研究所内全てを片づけたわけではない。当然まだ瓦礫が残っている場所はある。
皆忙しいか自由時間を謳歌しているのでそれなら自分が少しでも片づけて役に立とうと思ったのだった。
「能力を使うならともかく、素手でやるなんて馬鹿なの?それに片づけには方法があるから勝手にやってどうするの」
怒ったように口調を荒げるアプリケットに少し怖気づく。
確かにマレは今自身の能力である超能力を使ってはいない。
マレ自身がその能力を出来るだけ使いたくはないと思っているからだ。
「別にそこの瓦礫の片づけなんて、優先低いんだから別にマレがやる必要ないと思うけど?」
「でも……僕には、その……やれることが、少ない…………ですから」
やる必要がない、と言われてついマレは反論してしまう。
マレは幼くまた慣れていないせいかきちんとした役割というのを課されていない。
ダテンが料理を作ったりクブツのように健康を見たりのように。
エギスのように施設内を見回ったりアガラとシガラのように時には補佐を時には力仕事をとすることもできない。
マレにだけ何の役割もなかったのだ。
それを見て歯がゆく思ったマレが自分で出来ることはないかと考えた結果が今の瓦礫掃除だ。
例え優先が低くても誰もやらないのであればやって何が悪いのか。
「もしかしてこの間コロワに【特に今の所負う義務はないよ】って言われたの気にしてるの?」
マレの反応にアプリケットが呟く。
相変わらず痛い所を突いてくる人だとマレは思った。
一応マレだって勝手に何かする前に聞いてみたことがあるのだ。【何かすることはないか】と。
だが結果として返ってきた言葉はソレで、言うなればそれはマレ自身に期待することはないと言われてるも同然だった。
「コロワも馬鹿ね。マレみたいなタイプはネガティブに考えるんだからこういうときはきちんと説明しなくちゃならないのに」
はぁ、とアプリケットがため息をつく。
面倒くさそうに垂れた耳をかきあげてマレに近づいてきた。
どういうことだろうかとマレが頭をかしげていると、アプリケットはマレの隣にちょこんと座った。
そのままぽすぽすと自身の隣を叩く。
これは隣に座れということだろうか、とマレが隣にこれまたちょこんと座るとアプリケットの耳がマレの体を覆った。
「ここは寒いから、こうして話を聞いて」
思わず身動ぎしようとするのをアプリケットが止める。
確かにここは誰もこないせいか冷暖房は切られている。そのせいで冷たかった。
「マレ、前にも言ったでしょう?僕たちにはそれぞれ役割があるんだから、それ以上のことは気にしなくていいって」
もふもふの毛皮に包まれながら、マレは前にアプリケットに言われたことを思い出した。
確かあの時も自分にやることがなくて役に立てなくて悩んでいたときだった。
「でも……その役割すら…………僕にはなくて」
コロワに言われた【課される義務がない】というのはそういうことだ。
義務とは役割。それがないから悩んでいるんじゃないかとマレは思った。
「あるよ」
しかしそんなマレの言葉をアプリケットが否定する。
どういうことだとマレが首を傾げると、アプリケットが続きを口にした。
「役割って、課される前は何もなかったと思っているの?」
「……?」
アプリケットの言っている意味がわからず、首を傾げる
「ヘレナが衣服を作るということを課されているのはヘレナが衣服を作ることが得意だから」
「コロワが皆をまとめることを課されているのは皆をまとめるのが上手いから」
「そして、僕が非常時に一番初めに戦闘することを課されているのは……僕が一番戦闘しやすいから」
「全部最初にソレが出来るからがあるの。もちろん役割が出来る子がいなかったら無理やりやって慣れるしかないけど、別に今のメンバーなら出来る子がやればいいもの」
「マレが一番得意なことで期待されていることって何だと思う?それを考えてみて」
そこまで一気に言ってアプリケットがマレの方を見た。
得意なことで期待されていること。マレにはよくわからなかった。
自分は非力で手先が器用というわけでもない。
あるとしたら、忌み嫌われている超能力ぐらいだった。
「今あっさり除外したでしょ。それが一番大事なのに」
そんな考えすらアプリケットはあっさり看破する。
この人はもしかして人の心が読めるんじゃないだろうかとマレは思った。
「超能力、それがマレの得意とすることで期待されていること。マレはそれが使えるのが一番の強みなの」
「それで出来ることは多いの。オールマイティに出来るってこと。でもマレには今はそれが出来ない。理由はわかる?」
首を縦に振る。
理由はわかりきっていた。自分は超能力を進んで使おうとは思わないからだ。
「だから役割が来ないの。一番期待されていることが出来ないのであれば課す必要がないもの」
「一番望まれているのは恐らく戦闘だと思う。だってマレがいれば僕がマレを守っている間に始末してくれるもの、こんなに簡単なことはない」
「そうじゃなくても色々出来る。例えばそこの瓦礫掃除だって超能力が使えるのなら頼んでも危険が少ないから問題ないもの」
ちらりとアプリケットが瓦礫の山を見る。
マレの手では精々小さな破片を取り除くぐらいしか出来ないが、超能力を使えば大きな瓦礫ですらどかせるだろう。
「だからマレは役割を課される資格はある。でもちゃんと使えないから義務にされないだけ」
「でも僕は……この力は…………」
そこまで言ってマレは口ごもる。なんとなく言いにくいのだ。
「知ってる。マレがその力が嫌いってこと。僕は便利だと思うのに。でもそれならマレはこんなことする前にすることがある」
言いにくいことすらあっさり読まれてマレはほんの少し居たたまれない気持ちになった。
そんなマレに対してアプリケットは気にせず話し続ける。
「さっき言ったでしょう?役割はソレが出来るから課されるって。超能力を役割に使うのが嫌なら他の【出来ること】を造ればいい」
「簡単には出来ない?当たり前じゃない、そんな簡単に出来るのってルニカぐらい」
「こんな瓦礫を片づける前にマレはダテンから料理を習った?ヘレナから裁縫を教わった?してないでしょ?」
「お前は仕事をしていない、と言われるなら聞きに行って仕事はないと言われたんだから怒っていいけど、何も任されないからと怒るのは筋違いなの」
「だってマレに出来ることはないんだから」
「あったとしてもそれは嫌なんでしょう?なら本当に課せることがない」
「出来ることを増やす前にやれそうだからって手を出してそれがダメなことだったらどうするの?」
「この瓦礫を動かす場所が決まっていたら?そうでなくてもマレが怪我をしたら意味がない」
「だって怪我をさせないように課さなかったのに、人の気遣いすら無意味にする行為なの」
「任されたいなら自分を磨いて技量や特技をあげたり造るの。そうしてはじめて任される」
「力量も技量も特技も足りないのに任せられたがるのは馬鹿のすること。そして任せられないからと勝手に行動を起こすのは……」
「居ない方がマシな子」
最後の言葉に、マレの体がぞくりと震える。
【居ない方がマシ】
いらないと言われることに恐怖を覚える。
また自分は居場所を失くすのだろうか、せっかく得た、場所を。
「……そんなに怯えないの。さっきのはね、大人の話。子供のマレならそういう行動しても大丈夫。覚えてもうしなかったら許される立場にあるもの」
震える体をアプリケットが撫でる。
優しく撫でられているうちに、マレの体は落ち着いていった。
「だからマレがその力を使うのが嫌なら他のことが出来るようにすればいいの。そうすればコロワはその能力にあったことを課すから」
ね、と優しく言われてマレは頷いた。
マレはまだ幼くて何も出来ない。だけれどまだ子供だから幾らでも道筋はあるのだ。
そう考えるとマレの体は幾分か楽になった。
気負っていたことが軽くなったようだ。
まだまだ焦ることは多いけれど、もう少し考えてから行動しようとマレは心に決めた。
お礼を言おうとアプリケットの方を向いたとき、ふとマレは一つ疑問に思ったことがあった。
それを聞いてみようとマレは口を開いた。
「そういえば……アプリケット、さんは…………戦闘、嫌じゃ……ないんですか?他の役割とか……考えない、んですか?」
アプリケットは常は何もやらなくていいが、代わりに戦闘が起こるとまず真っ先に死ぬ可能性がある役割を課されている。
確かにそれは彼が戦闘用実験体として造られたからではあるが、そんな命の危険があるなら本人が言うとおり違う特技を磨けばいいのにと思ったのだ。
だが返ってきた答えはマレの予想を遥かに上回るものだった。
「え?嫌。だって初めに戦うだけで普段はなーんにもしなくていいんだもの、こんな楽な役割なんてないの。下手に他の特技があったらコロワにこき使われるじゃない。僕そんなのやだ」
つまりアプリケット本人としては逆に戦闘するだけで普段何もしなくていいこの環境が気に入っているそうだ。
マレはがくりと肩を落とした。
(死ぬ戦闘よりも普段何もしなくていい方がマシとか……)
アプリケットさんらしいと言ったららしいけど、とマレはまたしてもアプリケットから急に差し入れられた何かの肉を頬張りながらそう考えた。

end











78万HITありがとうございます!
78万お礼絵アプリケットです!
zigorekishi組厚塗りシリーズです。
アレ?他のキャラと違ってホラーや暗い話にならなかった・・・。
アプリケットはつっけんどんな癖に案外面倒見がいいです。
落ち込んでいるときにさりげなく側に来て刺々しいこと言いながら慰めてくれるタイプ。
ツンが多いツンデレ。
見事なツンデレは主にクレイルアがいるときに発揮されていました。
ちなみに本気で今の役割が一番楽だと思っている模様。
アプリケットの髪型はなんか特殊で、肩までのショート?ぐらいの髪で四か所だけ伸びているという髪型です。
ちなみにその四束は改造関係なしに動くとか・・・。

画像よく見えないぜって人はこちらより小さい(すぎる)絵が見れます。
縮小するとやっぱり綺麗に見えるよね・・・。

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2015/03/21