てくてくとマレが道を歩いていると、見覚えのある人物が目の端に映った。
「あれは……、エギス、さん……？」
砂場のところでごろごろして遊んでいるのは確かにエギスであった。
何をしているのだろうとマレが近づくと、エギスはマレの方をついと見た。
「お？そこにいるのは暗くてよく見えねぇけど、マレかぁ？」
「あ……はい」
見つかったのならば見える場所に行かないと、とマレがエギスの方へと近づいていく。
「やっぱりマレか！どうしたんだ？砂遊びにきたのか？」
「いえ……適当に…………散歩しているだけ、です」
「散歩か！散歩もいいよなぁ」
ざりざりと砂をかきまわしながらエギスが言う。
その姿はどう見ても猫だった。
ごろごろと砂とじゃれてご機嫌なエギスを見て、マレは一つの感情が心に浮かんだ。
（エギスさん、って……なんだか）
「かわいいって？」
「……っ！」
まるで自分の心を見透かしたかのようにエギスがマレの心を当てる。
人の心を簡単に読んでくるのはルニカだが、エギスはエギスでエギスに関わることだけ機敏に当ててくる、とマレは思った。
「だいじょーぶ、怒ってなんかねぇよ？可愛いって褒め言葉だろ？オイラ褒められるの大好きだからなぁ！」
きししと嬉しそうに笑うエギス。
男なのにそれでいいかと思うのだが、本人はそれでいいらしい。
まるで子猫のような振る舞いに、思わずマレは撫でたくなる。
さすがにそれは失礼にあたりそうでやらなかったが。
「んー……」
しばらく砂をいじり倒していたエギスだが、ふと何かを思いついたかのように考えだした。
マレはその間暇なのでなんとなく砂で団子を作ってみたりしていた。
「なぁマレ、もしかしてオイラのこと、そんなに怖くないって思ってるか？」
「え？」
突然のエギスからの質問。マレはどう答えたらいいかわからなくて混乱した。
「ああ、別にもう見た感じ怖いとかそういう意味じゃないんだ。要は底に恐怖があるかってこと」
「……」
「わかりづらいかぁ。んじゃアプリケットはどうだ？アイツも可愛いけど、怖くないか？」
「確かに……怖い、ですけど」
確かにアプリケットの外見はまるでぬいぐるみのように愛らしい。
ウサギの耳も相まって、まるで女の子のようにも見える。
けれど。
初めて会った時から、何か底知れぬ怖さがあった。
恐らくそれは生粋の戦闘用生物兵器として造られたモノとして持つものだろう。
可愛い。可愛いけれど怖い。微妙な殺気ともとれるものが纏わりついている、そんな感覚。
「な。でもヘレナは別に怖くねぇだろ？だってアイツ戦闘できないもん」
「ルニカは戦闘用じゃないけど怖いだろ？アレもルニカがオイラ達に何か出来るってことだから」
「ヘレナは完全に安心できても問題ないけどな、オイラにまでそう思ったらだめなんだよ」
「……？どういう、ことですか？」
意味がわからない、とばかりに首を振ると、エギスはマレの方に近づいてきた。
エギスの体は獣で、四足のために幼児と言ってもいいマレよりも頭の位置は低い。
一体どうしたんだろう、そう思ってマレがエギスの方を見るとエギスは顔をあげて。
マレと、いつもは前髪で見えないはずの目を合わせた。
「……っ！？」
その途端、ぞくりとした気持ち悪い感触が体中をはい回る。
窒息する喉、口の中に飲み込めない唾液が溜まっていく。
思わず逃げ出したくなるが、体が一歩も動かなかった。
少しでも、ほんの僅か動いただけでも殺されるかもしれない、そんな恐怖。
爪で引き裂かれ、牙で食いちぎられ、泣き叫んでも容赦なく続く宴。
そのための食卓にあがったかのような諦めと焦燥感の入り混じったような感情。
それらがぐるぐると体中を支配し、マレが思わずソレを吐き出しそうになったとき。
「な、怖いだろ？」
エギスがふいと目を逸らした。
がくり、と立っていられなくて膝を折る。
膝を折ったらエギスと頭の位置が合った。
エギスはガクガクと震えるマレを慰めるようにすりすりと頭をマレのほっぺたに擦り付ける。
まるでマーキングのようだった。
「大丈夫、マレ。もうオイラは怖くないよ」
もう一度エギスの方を見る。にこりと笑っているエギスは、目が見えているにも関わらず微塵も怖くなかった。
「マレ、マレはまだちっちぇーから知らなくてもわかんなくてもいいだけどな」
「世の中には見た目は怖くないけど中身がこえーやつらはいっぱいいるんだ」
「アプリケットみたいにもう見た感じ底知れない怖さがあるやつはいいんだけどな」
「オイラみたいに本当は怖いやつを絶対怖くないと思っちゃだめなんだ」
「オイラは子猫じゃないんだ。猫ですら人を殺せるんだぜ？」
「街中であう猫に怖さなんて感じないよな？でもソレはオイラ達を殺せる生き物ってことは」
「忘れちゃだめなんだ」
「おなかいっぱいで転がっている街中の猫はいいけど」
「山の中で空腹でいる猫にまで可愛いと思っちゃいけない」
「檻の中にいる間は安全なライオンにサバンナで近づく馬鹿のようになっちゃいけないんだ」
「だってそれはライオンに恐怖を抱いていないからなんだ」
「【檻があるから安全】という、何かがあるから安全ということを忘れちゃったら」
「マレは死んじゃうぞ？」
そこまで言うとエギスはまた砂遊びをし始めた。
かたかたと少し震えるマレにエギスはもう一度近づくとこう言った。
「ほら遊ぼうぜーマレー！城作ろうぜ城！」
「大丈夫だって、オイラはマレの友達だから安全！だし友達じゃなくなったとしてもオイラの敵にならない限りオイラはマレを殺さないからさ！」
その言葉で恐怖がある程度とけたマレは、素直に砂場にぺたりと座り込んだ。
それを見てエギスは満足そうに笑うと、砂遊びを続行しはじめる。
その手で果たして城が作れるのかは疑問だが。
（……エギスさんだって、可愛いだけじゃない。のか）
それはつまり。
自分もそういうものだということにマレは気付いて、少し悲しくなった。

end

初見ではちょっと怖かったので目無しにしたけど目有のエギスが見たい方はこちら










７５万ＨＩＴありがとうございます！
７５万お礼絵エギスです！
zigorekishi組厚塗りシリーズです。
最初エギスの目がちらりと見える方がよいと思って描いていたのですが、見つめ続けるエギスに怖くなって目無しでアップ。
見たい方は↑から見れます。
こういうとき厚塗りで良かったと思いました（厚塗りだと乗せていくので目のパーツだけ消せる）
エギスは可愛く無邪気で無害に見えるけど怖いんだぜ？という話。
一応子ライオンですからねぇ・・・。
殺傷能力はアガラ＆シガラより高くて、効率の良さだったらコロワより上だし、というかマイナス要素がないので長期間戦えるのが強みだと思う。
（コロワは解放するとアウト・ダテンは吸収しすぎると死ぬ・アプリケットは食べすぎだめ）
しかも外見は人外ですけど、他と違って怖そうに見えないし。
マレにちっちぇと言ってますが、本人もちっちゃい子です。
唯一飛べるので（ルニカ除く）色々普段の役割としては多め。
多分こいつ抱っことかされるの大好きだと思う。

画像よく見えないぜって人はこちらより小さい（すぎる）絵が見れます。
縮小するとやっぱり綺麗に見えるよね・・・。

イラストへ



2014/07/24