76万HIT記念イラスト
 

「あの、アガラさん……シガラさん……」
その日マレは夕方頃アガラとシガラの部屋にいた。
理由は単純に本を借りにきたから、だ。
アガラとシガラは意外と読書家で、かなりの量の本を自室に持ち込んでいるらしい。
だからへたに本を図書室から探すよりも、アガラとシガラに読みたい本を聞いた方が早いとコロワに言われたのだ。
マレは特に読みたい本はなかったが、何か童話は知らないかと聞きに来たところだった。
「「なん、だ。マレ」」
ソファに座ってゆっくり本を読んでいたアガラとシガラはちらりとマレの方を見た。
「本を……貸してほしいのです、が……」
「「何の、本、だ?」」
「えっと……童話、を」
マレの言葉を聞き、アガラとシガラが立ち上がる。
すたすたと近くの本棚へと歩いて行き、じっと並んでいる本を眺め出した。
「この、本は、どうだ?」
「少し、ダークすぎ、るな」
「なら、こっちは、どうだ?」
「それ、は、もっと、幼い、子、用だ。マレ、なら、こっち、だろ」
何やら二人でブツブツ言ったあと、一冊の本を取り出す。
赤い装丁の少し大きめな本だった。
「「マレ、これなら、楽しめ、そうだろ。これが、面白かった、ら、もっと貸して、やるから」」
「あ、ありがとう……ございます」
マレがお礼を言って本を受け取ると、また二人はソファに座りこんだ。
そしてそれぞれ赤い装丁の本と青い装丁の本を手にとって読みだした。
「……?」
それを見て、マレは一つの疑問が浮かぶ。
「あの……」
「「なん、だ」」
読書を二度も邪魔されたせいか、ほんの少しだけ苛立ちが混ざった声が聞こえる。
それに怖気づいたのか、マレは固まってしまっていると、アガラが口を開いた。
「マレ、大丈夫、だ。シガラの読んで、いる部分がいいところ、な、だけだから」
にこにこと笑っているアガラと対照的にシガラは少しだけ目を逸らしている。
だがそれ以上文句を言わないところを見ると、そこまで怒ってはいないらしい。
「あの、えっと……、アガラさんとシガラさんって、一度に違う本を読めるんです…………か?」
マレの疑問、それはアガラとシガラが別々の本を読んでいたことだった。
よく二人が本を読んでいるところを見てはいるが、それは一冊の本を一緒に見ていることが多く、今回みたいにまったく別々の本を読んでいるのを見るのははじめてだった。
アガラとシガラは人工的に体を繋げられた双子である。
一緒の行動しか出来ない彼らが違う本を同時に読む、ということが幼いマレには不思議だったのだ。
「「俺達、は頭は別、だからな。感情も、別だ。たまには、お互い違う、本を読みたいときも、ある」」
「俺は今、恋愛小説が、読みたい気分」
「俺は、シリアスな、ミステリーが、読みたい気分」
「「それだけ、だ」」
「そうなんですか……」
頭は別。そう考えて確かにとマレは思った。
彼らの痛覚は一緒なので混合していたが、彼らは【彼ら】なのである。【彼】ではない。
二つの個体として認識されているのであれば、感情も二つあるはずだろう。
「……あ、それなら」
そんなことを考えて、マレにまた疑問が浮かぶ。
「片方の感情が嬉しくて、片方の感情が悲しかったら……体は、どうなるんですか?」
幼い質問だった。年相応の。
頭が別のモノであるのに、体が一緒ならば。
それならば体はどちらを感じるのだろうか、と。
「「……」」
その質問に対し、アガラとシガラは押し黙る。何かを考えているようだ。
もしかして失礼な質問だったかもしれない。そう考えて慌ててマレが口を開こうとしたときだった。
「「マレ、その答えはな、既にあるんだ」」
アガラとシガラが口を開いたのは。
忌々しそうに、だけれどマレに対してではなく、遠い過去のことを思い出しながらアガラとシガラはぽつりぽつりと話し始めた。
「「昔、まだここが実験施設だった、頃。マレと、同じ考えをした、研究員が、いた」」
「「マレの言う、あやふやな、こと、じゃなく、きちんとした、科学的な、検証だ」」
「「具体的に、言うと、片方が嬉しいときに、片方が悲しいと、体の反応、は、どっちの反応を、示すのか、だ」」
「「体は、嬉しいとき、悲しいとき、違う、反応を、示す」」
「「ストレスで、体がやられたり、楽しくて、体の痛みを忘れたり、とかな」」
「「いっぱい器具をつけて、やつらは、俺達を実験、した」」
「「その結果、たくさん、わかったことが、あった」」
「「その、結果は……」」
そこまで言って、二人の口が止まる。
「結果、は……」
長い沈黙。それに耐えきれずにマレが先を促すように二人の言った言葉を反復した。
アガラとシガラはマレの言葉を受けて、空を仰ぐように同時に上を見上げて、そして。
「「知らない、方が、いい」」
そんな、答えを口にした。
「え……」
「「知らない方が、いい。マレ。お前は、俺達が二人とも、別の感情を持てる、それだけ、知っておけばいい」」
「なんで……ですか?」
「「こっちは、教えておいてやろう、あのな、マレ」」
「「その、最初に言った、同じ考えをした、研究員、な?」」
「「アイツ、な……」」
「「結果をしって、そのまま発狂、した」」
「……っ!?」
唐突にそんなことを聞かされて、マレの体がびくりと震える。
こんな所で残虐な研究を行える研究員が、発狂した。
それは、一体……どんな結果だったというのだろうか。
「「俺達は、知っている。結果を。そして……」」
「「ルニカ、も、結果を知って、る」」
「「どうしても聞きたい、なら、ルニカに、聞け」」
「「教えて、くれない、なら、それは、まだ、知ってはいけない、ことだ」」
そこまで言うと二人は再び本に目を落とした。
もう答えは話したとでも言うかのように。
肝心な答えは聞いていなかったが、それでもマレにはこれ以上追及するつもりはなかった。
そして答えを知っているルニカに聞くつもりもなかった。
「あり……がとう、ございます」
もらった本を腕に抱きしめて、マレはそのまま部屋を後にする。
背後からは時折楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
今、あの体はどっちを体験しているのだろう。
だがマレはもうそのことについて答えを知ろうとは思っていなかった。

end











76万HITありがとうございます!
76万お礼絵アガラ&シガラです!
zigorekishi組厚塗りシリーズです。
アガラとシガラが一番別人になってますね!
多分顔の輪郭が大人っぽいというかすらりとしている点と、髪型が厚塗りの都合上違うように見えるからでしょうか。
ぱっと見体も二つあるように見えますが、一つです。
アガラとシガラは人工的に繋がってはいますが、一つの体を共有しているわけで。
その体はどうなるの?という話でした。
アガラとシガラは答えを知っていますし、自分の体のことなので多分知ってもなんとなーく「ああそうか」と思っただけだと思います。
ルニカはアガラとシガラが話した&研究レポートこっそり読んで知っています。
一応仲間の体調管理とかにも必要なので。ちなみに反応は「ふーん」だった模様。
アガラとシガラは読書家で、あまり動けなくなる期間とかもあるのでさらに読書家。
戦闘時は原始的に殴る蹴るですが、どちらかというと知識よりだったりもします。
仲間のうちでも結構年上ですしね。
ひっそりと静かにしていたいときも多いのに、エギスとかルニカとかに邪魔されていそうな予感。
ちなみにご飯は1.5人前ぐらいの量をを二人で分けて食べている感じです。
嫌いなものは片方に渡して、「どうせ体には入るからいいだろ」と開き直るところは子供っぽい。
1人前でも2人前でもないのは体は一つなので2人前もいりませんが、頭で結構栄養とったりするので1人前は少ないからです。

画像よく見えないぜって人はこちらより小さい(すぎる)絵が見れます。
縮小するとやっぱり綺麗に見えるよね・・・。

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2014/08/20